130以上の民族が集まるミャンマーでは、少数民族和平と雇用創出が喫緊の課題の一つです。経済成長の恩恵が地方にはまだまだ届いていないため、主に女性や若者たちが出稼ぎに出てしまい家族が地元で一緒に働ける環境が望まれていました。「女性たちが得意とする織物技術を利用した雇用の場を日本にサポートしてほしい」そんな声が私たちに届いたのは2012年のこと。11月にはミャンマーを初訪問し、村の織物施設等を視察しました。現地には化学染料の綿糸は手に入るが、絹がないという認識でした。輸出に耐えるような高付加価値のある織物を目指すためには、絹糸の使用が不可欠ですが、電力事情も悪く、まずは絹織物に必要な生糸を手動で作ることが必要と考え、日本の伝統的な繰糸技術「上州座繰り」から指導することにしました。2014年1月より日本人専門家を派遣し、座繰り機や座繰りに必要な機材や原料の繭を送って指導を開始、生糸や真綿作りの工房がスタートしました。この活動がアウン・サン・スー・チー国家最高顧問(当時はNLD党首)の耳にも入り、今後品質の良いシルクができた暁にはご自身の名前を冠にした絹織物ブランドにしても良いという許可を直接頂き「スーチーシルク®」の商標を取得し、日本の技術で着物生地になりました。蚕という虫が吐く、美しく繊細な糸を扱う技術を身につけ、定期収入を得ることは地元女性の自信に繋がりました。
やがて「自分たちの民族衣装をシルクで作りたい」という声が上がり、州の中で養蚕を希望する農家も少しずつ現れ、2016年6月には州首相主導のもと養蚕事業を開始するため州政府の農場で桑栽培も始まりました。この活動をサポートするためJICA中小企業・SDGsビジネス支援事業-普及・実証・ビジネス化事業に応募、採択され2018年3月より事業開始(事業期間2018年3月〜2020年6月)とつながりました。かつて日本が世界に向けて送りだした生糸も最初は機械製糸による生糸ではなく座繰り生糸からでした。小さな一歩が今後ミャンマーのシルク産業に影響を与える日が来るかもしれません。